驚きのノベルティ 名入れ

従来、ここでいう法律は「厳格解釈」によって、国会が定める法律だけだと限定的に解釈されてあるいは、国の法律で定められている規制について、自治体が、合理的な範囲で拡大することに限られる。 都市の問題に戻ろう。
こうした法律論争が、さきに検討した指導要綱ラッシュの法的な背景だった。 つまり、要綱は道路、公園、緑地、治水、排水施設、その他の公益施設などの都市施設や開発手続きなどについて、都市計画法や建築基準法に「上乗せ」あるいは「横出し」するものであった。
問題は、こうした「上乗せ」や「横出し」を建設省や裁判所が「合理的」と認めるか否かである。 法律を解釈する建設省や裁判所が否定すれば、つまり法律に従っていないと判断すれば、自治体は条例化できない。
建設省は、バブル時代の「規制緩和」行政でその本音をみせたように、「上乗せ」や「横出し」には一貫して否定的だったし、裁判所の判断も分かれていた。 そこで、やむなく自治体は、「条例」という法的強制力をもった「固い」ルールではなく、要綱という行政指導による規制という柔らかいルールを選択していたのである。
とくに一九九○年代に入って、条例が続々と制定されてきたのは、バブル時代に市町村が経験した土地、住宅、都市の危機の深化が空前のものだったばかりではない。 こうした背景以上に重要だったのは、自治体が国や裁判所の圧力を乗りこえるためには、議会を参加させることによって、自治体としての全体の意志をはっきりさせる必要があると判断したことだ。
法的にいえば、指導要綱に「法の適正な手続き」(デュー・プロセス)という裏付けをあたえたことになる。 その効果は、すくなくとも理論的には、要綱よりも格段に強くなる。

建設省は「通達」によって、指導要綱にブレーキをかけた。 その場合、「通達」に立ち向かうのは市町村長という個人である。
日本のシステムからいえば、いわば親分と子分の関係である。 これが条例であれば、その一部を是正するにしても、議会の議決を必要とする。
それには市町村長の個人の意志ばかりでなく、議会、あるいは議会が代表する住民の意志がかかわってくる。 そのことによって都市計画の問題に議会、住民が参加する民主主義の世界が開けてくる。
裁判においても、市町村の行政指導よりも、議会の議決、つまり全住民の意志によって決められる条例の方が、「正当性」をより強くもっている。 地方自治の復権こうして、一九九○年代は、条例の時代に入ったのだが、自治体は法律との「抵触」に無関心で条例を制定しているわけではない。
避けるために法律的な逃げの「テクニック」がこらされている。 先ほどみた掛川、世田谷、湯布院の条例の細部を検討してみよう。
掛川の条例の場合、まちづくり計画地域での土地の売買などの届け出があった場合には、「当該土地売買等の契約の締結の中止その他の届出に係る事項について必要な措置を講じるべきことを助言又は勧告することができる」となっている。 世田谷の条例でも「住宅の水準」や「住環境の水準」について、「水準を満たすよう努めなければならない」としていた。
湯布院は、事業者は「地区の町づくり計画を策定した区域内における開発事業等について、地区の町づくり計画に定める事項に適合するように努めなければならない」などとしている。 つまり、条例の核心部分は、行政側は「助言・勧告ができる」であり、業者側は「努力する」というように断定をさけ、抽象的な表現になっている。

こうした抽象的な表現では、いぜんとして直接的な効力はなく、行政指導の域をでない。 この裏には、すでに述べたように、建設省や同省の意向をうけた県の強い「指導」という名の圧力がある。
自治体の自治に厳しい枠をはめようとする最高裁の姿勢もある。 同じ行政指導でも、議会と住民を背景にしているだけに、条例の方が、権威が強いことは改めていうまでもない。
ひるがえって考えてみれば、都市の問題に限ってもこれだけ多数の要綱と条例ができていることは、もはや「国家高権論」による全国画一の都市法の体系が限界をこえていることを証明している。 国家主導の都市計画にかわるものは何か。
自治体が「こそくな」法的テクニックを使わずに、それぞれの市町村にあったまちづくりをするにはどうすればよいのか。 すでに道はみえている。
要綱の時代から、より地方の声を反映させた条例の時代へ。 地で高まる地方分権論。
「国家高権論」はまがりなりにも民主主義を掲げる日本にはそぐわない。 先進国では、都市計画は地方自治体の仕事になっている。
地方自治の道であり、民主主義の道である。 したがって、日本の都市、それに関連する土地、住宅問題を解決するには、自治体の自主的なルールの制定権をしばっている都市計画法や地方自治法といった法律の方を改正して、きちんと自治体の問題は自治体で解決できるように立法権を認めるようにすべきだろう。
そうした法律の改正あるいは新法の制定は、政官財の三位一体(あるいは司法を加えた四位一体)と地方自治体、あるいは市民との綱引きであり、民主主義とは何か、地方自治とは何か、つきつめれば、戦後の日本は何だったかというきわめて根本的かつ政治的な問題になる。 そうした政治的な綱引きが具体的に繰り広げられたのが、一九九二年の通常国会における都市計画法とそれにともなう建築基準法の改正問題だった。
乱開発などに歯止めをかける必要は認めながらも国家高権論に固執する政府案と、時代と現実の要請に応えて地方に都市計画策定の一義的な権限をあたえようという野党案が衝突した。 都市計画をめぐって、本格的な野党案が提出されたのはこれが初めてだった。
「美の基準」をつくった真鶴町政府の「改正案」とはバブルの時代に、土地、住宅問題をひっくるめて日本の都市計画が破綻したことは明白になった。 事後になってマスコミも批判のキャンペーンをはり、新聞の投書欄には市民の怒りと嘆きの声があふれた。

この批判の矢面にたった政府がまず先手を打つことによって一九九二年の都市計画をめぐる国会での初の本格的な対決の火ぶたが切られた。 一九九○年、建設大臣が都市計画中央審議会に「経済社会の変化を踏まえた都市計画制度のあり方について」という諮問をおこなった。
諮問では六本の柱があげられた。 望ましい都市像の明確化、適正な地価水準の実現への寄与、適正な土地利用規制、土地の有効・高度利用の促進、均整のとれた都市の発展、魅力ある都市環境の形成、の六点である。
ここまでは、ほぼ誰しも異存がないだろう。 いわば、抽象的な政策、方針といったものだ。
第一次全国総合開発計画から中曽根内閣の「アーバン・ルネッサンス」まで、政府・与党は国民に美辞麗句に彩られた政策や方針を示してきたが、現実は市民の期待を常に裏切ってきた。 問題は、審議会がどういう答申をし、どのように都市計画法の改正に反映都市計画中央審議会は、一九九一年八月に「中間答申」、同年十二月に「最終答申」を建設大臣に提出している。
最終答申の内容をみると、諮問のついては「市町村マスタープラン」の創設、とについては「用途地域の詳細化」、については「誘導容積制」の創設などを提案している。 ついては、あまり明快な対応はなかった。
こうした答申を軸に建設省は一九九二年三月、都市計画法改正案をまとめ、国会に提出した。

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